にほんブログ村 本ブログ ビジネス書へ

熱海の奇跡/市来 広一郎



「熱海」という地名を聞いて、なにを思いますか。

僕は「衰退」がすぐに思い浮かびます。2005年まで観光業界にいたのですが、当時、衰退していく観光地がたくさんあるなか、その象徴が「熱海」だったからです。

業界を離れて数年後、「熱海が変わった」という声が耳に入り始めます。実際に足を運ぶことができなかったので実感することはできていません。しかし、多くの人から同じような話を聞くので、本当なんだろうと思っていました。

実際に何が起こっていたのか、この本を読むとわかってくるような気がします。

〈目次〉
プロローグ ビジネスによる〝まちづくり〟があなたの街を再生する
第1章 廃墟のようになった熱海
第2章 民間からのまちづくりで熱海を再生しよう
第3章 まちづくりは「街のファンをつくること」から
第4章 街を再生するリノベーションまちづくり
第5章 一つのプロジェクトで変化は起き始める
第6章 街のファンはビジネスからも生まれる
第7章 事業が次々と生まれ育つ環境をつくる
第8章 ビジョンを描き「街」を変える
第9章 多様なプレイヤーがこれからの熱海をつくる
エピローグ 都市国家のように互いに繁栄

「ビジネスによる〝まちづくり〟」とはよく言われます。しかし、なかなか成功事例を探すのは難しいです。またたとえ成功事例を見つけても、それぞれの街の置かれた環境が違うので、単純に手法を真似してもうまくいくとは限りません。ほとんど場合、うまくいかないでしょう。

この本に書かれていること、行われてきた施策は、熱海という街の特徴に合わせて試行錯誤されて結果生まれてきたものです。別な街ではその街なりの特徴に合わせて考えるしかありません。同じことをしても失敗する以前に、同じことなどできない場合も多いと思うのです。

だから、形を真似しても仕方がありません。学ぶべきは施策ではなく、精神だと思います。

僕は感じた二つのことがありました。

一つは、地元に人に地域の良さを知ってもらうことの大切さ、です。地域おこしと言うとどうしても外部から人を集客してくることに目が向きがちです。むろん、最終的には人を連れてこなければ活性化になりません。しかしその前に、地元の人が地元の良さを気づかなければ外からの誘致などできないと思います。

観光客が地元の人に
「この辺の見所や名物はなんですか?」と聞いて
「ない」と言われたら処置なしですから(笑)
今から20年ほど前、僕が宮城県南部(仙南地区)のホテルの東京事務所に勤めていたときのことです。4月の集客に苦戦していたので
「桜の名所巡り」
ツアーを作り、ホテル宿泊へ誘導しようと考えました。旅行会社に提案する企画を作るために、ホテルの従業員や地元で知り合った人たちに
「この辺に桜の名所ってない?」
と聞いて回わりました。しかし答えは異口同音に
「ない」
でした。

ところが調べてみると、桜の名所100選に選ばれている場所があったのです。行ってみたら素晴らしい景色が広がっていました。いま、JR東日本のポスターに頻繁に登場する「大河原一目千本桜」です。

これ以来、地元の人が「名所? ない」と言っても信用しないようにしています。探せばきっとあるのです。ただ地元の人にとっては当たり前過ぎて、知らないまま、気づかないままでいるのだと思います。


もう一つは、「一点集中で始める」でした。

本書に、熱海銀座商店街で空き店舗を活用してカフェをオープンした逸話が出てきます。一店舗、開業したくらいでなにかが変わるとは思えない人が多いでしょう。しかし、つぎ込める資源が少ない段階で、多面的な展開をしても効果は出ません。一点にリソースを集中して、そこから起こる波紋の広がりが新しい展開を生んでいくのだと思いました。

一点突破、全面展開、ですね(笑)


ただこうして考えていくと、地元にじっくりと腰を据えてコミットできる人でないと、中心の担い手になるのは難しいだろうと思います。地方で新しいことを始めようとすれば「よそ者」扱いされ、さまざまな壁にぶつかるのは目に見えています。

まして外部からコンサルタントとして関わるだけでだけでは、地元に受け入れてもらえない、責任は担えないでしょう。

中小企業診断士として、地域おこしに関わる一つの課題はここにあると思いました。

やり方は二つあると考えています。

一つは、本当にコミットしたい地域にどっぷりとはまり込み、自らが中心の担い手になっていくこと。

もう一つは、地域の担い手を支援する立場を取ること。

どちらも可能性はあると思います。それぞれ自分なりの考えで選べばいい。

ただどちらにしても「この街が好き」との気持ちがないと続かないと思われます。中途半端な気持ちでは関われない。そう考えています。