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五能線物語 「奇跡のローカル線」を生んだ最強の現場力/遠藤功


現場論: 「非凡な現場」をつくる論理と実践』や『現場力の教科書 』などの著者である遠藤功さんによる、五能線のレポートともいえる書です。

五能線は、秋田県の能代と青森県の五所川原を結ぶローカル線。大半は秋田県の日本海側の海沿いを走っています。

過疎地帯の配線寸前の路線、それがかつての五能線でした。それがここ20年で大きく変わります。乗ってみたい観光列車のトップに躍り出たのです。

<目次>
第1章 五能線が五能線である理由
第2章 「リゾートしらかみ」誕生
第3章 地域と共に
第4章 AKITA Way

五能線を管轄しているのは秋田支社です。JR東日本管内で一番小さな支社になります。だからこそ、と言っていいと思いますが、普通では考えつかないようなアイデアで五能線を観光列車に生まれ変わらせていきます。

「たとえ遅延して会社に怒られても俺はやるという同僚もいる。お客様の期待を背中に感じて、『サービス徐行』をしないわけにはいかない。是非このサービスを列車ダイヤに組み込んで欲しいと必死だった。」(p84)

五能線中でも、あきた白神から深浦あたりまでは海沿いを走ります。僕は五能線に乗ったことがないのですが(苦笑)、並走する道を観光バスで何度も走りました。海にはいくつかもの顔があり、ずっと見ていても飽きません。中にはいくつもの絶景ポイントがあります。

そのポイントをお客様にゆっくり見てもらおうと、何人かの運転士が「勝手に」徐行を始めます。お客様へのサービスですが、規則違反になります。決められたダイヤ通りに運行するのがルールですから。処罰対象になってもおかしくない。しかし、秋田支社はこの「サービス徐行」を正規のダイヤに組み入れてしまいます。現場の判断を尊重したということでしょう。

また五能線に「リゾートしらかみ」が生まれ、人気が高まったころには「蜃気楼ダイヤ」を生み出します。路線の中でも特に人気が高い観光地は「十二湖」です。ですから十二湖駅で降りるお客様は多いです。しかし当時のリゾートしらかみは一編成しかありませんでした。観光を終えて次の列車に乗ろうにもそんな列車にはありません。

そこで生み出されたのが「蜃気楼ダイヤ」です。十二湖駅でお客様を降ろした列車はそのまま深浦まで進み、その列車を十二湖駅の一つ手前、岩館駅まで逆戻りさせます。そして、観光を終えたお客様を乗せます。ダイヤ上は、深浦駅にずっと停まっていることになっていたので、「蜃気楼」と言われました。

言われてみればありそうな話に聞こえますが、列車を回送させるなんてことは、当時、常識外のことでした。バスじゃないんですから。しかし、切羽詰まると、突拍子のないアイデアが生まれてくるものです。しかも支社の上層部はそれを却下しなかった。現場のアイデアを受けて実現に動いた。だからこそ、こんなユニークなダイアが生まれたのでしょう。

当時僕は、観光業界にいましたが
「手持ちのカードが少ないことを逆手にとって、すごいことをしてるね」
という話をしていた記憶があります。

トップダウンではなく、常にアイデアは現場から生まれています。強いて言えば、トップから現場に「現場感覚に基づくアイデアを出せ」という命令が飛んでくるくらいでしょうか(笑)

「誰かの命令や指示で動くのではなく、一人ひとりが自らの意志で動き出す。そのために、常に感度を磨き、現場ならではの気づきを活かす。こうしたボトムアップの動きこそがAKITA Wayであり、『秋田発』のイノベーションはそこから生まれている」(p174)

現場からイノベーションが起きるとなると、ずっと現場にいたいと思う人も出てくると思います。ただでさえ、「管理職になりたくない。一生現場にいたい」という人をほめたたえる風潮が日本にはあります。

しかし、一人の運転士は次のように語ります。

「運転士としてのキャリアをまっとうし、ラストラン(最後の乗務)で花束をもらうのが夢だった。昔は自分のさえしっかりやっていればよいと思っていた。でもそれでは鉄道人の使命を果たせないと気づいた。CS 運動に取り組む中で、上司に支えられて多くの達成感を味わった。今度は自分が後輩たちを支える番だと思った。オリンピックの聖火リレーと同じで、次の世代へ伝えていくことが真の鉄道人の使命だと思う」(p215)

「生涯現場」という生き方も素晴らしいと思いますが、後輩を指導する立場になることはそれに負けず劣らず素晴らしいと思っています。そういう人がいないと「伝承」されていかないことがたくさんあると思うからです。

遠藤功さんは一貫して「現場力」に着目された本を書かれてきました。そこに書かれたことを知った上でこの本を読むと。具体的に事例としていろいろなことがつながってくると思います。

遠藤さんは最後にこう書いています。

企業価値、株主価値などという得体の知れないものだけで経営を語ろうとするから、経営の本質を見誤る。
経営は人の営みである。そこでは、数多くの「小さな物語」が日々営まれているはずである。そこに目を向け、どうしたら良質な「小さな物語」をたくさん生み出すことができるかを考えるのが経営者の仕事である。(p218)

お客様への価値を生み出すのは現場です。現場こそが利益の源泉です。現場が最大限の力を発揮できるようなるためにどうすればいいのか、それをやり抜くことが経営者の最大の仕事なんだと思いました。

PS
マザーハウス在籍中、遠藤さんから薫陶を受けたという、ミスターミニット社長の迫さんがかかれたこの本も併せてぜひ。

【読書】やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力/迫俊亮




そして、遠藤功さんの主なご著書