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荒くれ漁師をたばねる力 ― ド素人だった24歳の専業主婦が業界に革命/坪内知佳



ビジネス書を読んで、魂を揺さぶられたのは久しぶりです。よく悪くも著者の坪内知佳さんは、それだけのインパクトがある人です。

大学中退、結婚、出産、離婚、シングルマザー…… ベタに見えるほどの不幸な境遇と、そこから這い上がって成功をつかむ話、ではありません。別にまだ、成功という結果が出ているわけではありません。そもそも彼女は、シングルマザーになったことを不遇だと考えていたとは読み取れません。生きていくために必死に立ち向かっている姿しか浮かんでこないのです。

そんな中、偶然知り合った漁師から「何か新しくできることを考えてくれ」と言われ、6次産業化の認定事業者申請を提案します。そして、その事業計画書を自分で書くことになり、さらに、「計画書を書いたのはあんたなんだから」といわれて、その団体(萩大島船団丸)の代表になりました。

そして、中国・四国地方で国が認定する「六次産業化法」の認定事業者第一号になります。漁師たちからは「あんたのおかげで、難しい書類も書けて、認定ももらえた」とお礼を言われます。

<目次>
第1章 「社長になってくれ」と頼まれて
第2章 荒くれ者たちとの戦い
第3章 漁師たちの反乱
第4章 心をたばねる
第5章 強く、熱い風になる
第6章 命を輝かせて働くということ

「認定を受けたとはいえ、計画は机上のものに過ぎない」
ということで、彼女は先頭に立って動き始めます。それは漁師たちの思惑を超えたものだったでしょう。そこまで求めてはいなかったと思います。しかし彼女は、計画書を作る過程で、漁業の可能性と自分に使命を見つけてしまったのだと思います。
「萩大島の漁業がずっと存続できるようにする。そして日本の水産業を元気にする」
だから、尋常ではない動き方をしていきます。

変革を求めますから、既存の仕組みとはぶつかります。のみならず、仲間の漁師たちとも対立します。

漁師のリーダーは彼女について「最初は、私たちを救う天使に見えたが、関わるうちに悪魔に変わっていった」と言っています。よほどキツイ戦いがあったんでしょう。普通、「悪魔」なんて言いませんから(笑)

もちろん、けんか別れをしたわけではありません。危機はありますが、いまでも一緒にやっています。それがなぜかは漁師のリーダーの次の言葉に集約されていると思います。

今でも腹が立つことはたくさんあります。でもみんなが彼女についていくのは、彼女は絶対にあきらめない。やると言ったらやるし、危機があっても必ず解決策を見つけてきてくれる有言実行の人だからです。(p88)

彼女のすさまじいまでの行動力については、とても書ききれないので本書を手に取ってほしいと思います。読めば、こんな人がいるのか、という驚きとともに、エネルギーが湧いてくるはずです。



「危機があっても必ず解決策を見つけ」てくる中には、人の問題もありました。ベテランの漁師が3名、同時に辞めてしまい、このままでは漁ができないという危機に、若い人を見つけて萩大島につれてきます。

その後も、新しい人、漁師未経験の人を採用しています。そういう人の多くは、さまざまな事情を抱え、一般企業では表面的に判断されて、採用が難しい人も含まれています。

なぜそういう人を採用するのか。なり手が少ないというのもあるでしょうが、彼女なりの想いもありました。

多様な人材を受け入れ、それぞれの立ち位置で彼らに活躍してもらいたいと思うのは、私自身がこれまでの人生で失敗を重ねてきたからかもしれない。世の中で生きづらい若者を一人でも多く採用することが、世間への恩返しのようにも感じていた。(中略)
自分がこの船団丸という居場所をもらったように、彼にとってこの海が新しいふるさとになればいい。彼らと話を重ねるたびにそんな思いが強くなっていった。(p136)

おそらく、彼女自身が普通であれと求められてきたことに違和感を覚え、反発もしてきた中で、船団丸で居場所を見つけ、自分の想いで動けるようになったからこその行動力だと思います。「動けば雷電の如く、発すれば風雨の如し」と形容したくなります。少しでも見習いたいと思うのです。

ただ、僕らくらいの歳になった普通の大人は、いくら憧れても、直接的に彼女のようになる、というのは目指さないほうがいいと思っています。若い時に修羅場をくぐった経験がない普通の大人は、体力的に持たないと思うのです。

しかし一方で、彼女のような人をつぶす側の大人になってもいけないと思います。少なくとも僕はそうはなりたくない。いままでの常識とぶつかり合うことは必定ですし、初めてのことをすれば、失敗もあるでしょう。それをあげつらっても仕方がない。そんなことより、彼女の行動に感動したならば、応援し、支える立場でありたいと、強く思います。それが僕なりの社会に対するコミットだし、先人から受けた恩を返すこと、恩送りでもあると思います。

そもそも彼女は、「私、失敗しないので」と思っている節があります。

私にとって、すべてのことは目的に到達するための通過点である。何かうまくいかないことが起きても、それは失敗ではなく、プロセスに過ぎない。(p165)

大切なのは「目的」です。その過程ではいろいろあるでしょう。立場によってやり方は違って当たり前だし、自分のやり方も修正していく必要もあるでしょう。それを傍から見ると、ぶれたように見られるかもしれません。しかし、目的さえぶれなければ、どんなやり方でもいいのだと思います。

だから、彼女(のような人たち)を応援し、支えることができる自分であり続けたいと思っています。