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あの同族企業はなぜすごい/中沢 康彦



「同族企業」にマイナスのイメージを持つ人はまだ多いのでしょうか。

僕の知っている会社(誰が見ても同族企業に見える)には、親族全体の持ち株数を50%以下にしたり取引先に株をもってもらったりして、株を分散させて同族ではない体裁にしている会社もあります。社内からは「同族経営は時代遅れだから脱却すべきだ」との声も一部に上がっているそうです。

企業は公的な存在だから同族で支配をしてはダメだとの考えが広まっていた時代はありました。また、メディアで同族企業が取り上げられる場合、創業家内の骨肉の争いなどのスキャンダル的なものになりがちで、イメージが悪くなってきた経緯もあると思います。
しかし、企業経営の実態を知れば知るほど、同族経営が言われているほど悪いと思えなくなりました。逆に、株式を上場しているがゆえに、本当の意味での成長を阻害されていることもあるのではないか、とも思います。

<目次>
第1章 同族経営は激しい―家族対立も企業成長の原動力
第2章 世代交代はもろ刃の剣―次の成長の好機か消滅への道か
第3章 後継者難の時代、家業を継ぐ哲学―個人の夢と家への思い
第4章 これからの老舗マネジメント―続いてきた、だけでは続かない時代
第5章 脱同族という選択―「その先」にあるものを求めて
第6章 知られざる「もう一つの主役」日本経済に深く根を張る同族経営
第7章 ビッグデータで初検証「同族経営のメカニズム」
第8章 同族だから起きる課題をアカデミズムで斬る

前半は、さまざまな企業の事例が取り上げられています。

「ジャパネットたかた」「ホッピービバレッジ」「伊那食品工業」「ダイヤ精機」「聖護院八ツ橋総本店」などメディアに取り上げられることの多い、著名な企業も入っています。が、取り上げられている企業のほとんどは、地方に拠点を置く、中小企業にです。(上記であげた会社も、地方に本店がある会社か中小企業、あるいはその両方に当てはまる会社ばかりです)

取り上げられるエピソードの多くは「事業承継」が関わっています。同族に継がせるのか、社員から後継者を選ぶのか。同族経営だからこその葛藤がそこにありました。

形は一つではありません。それどころか、会社によってそれぞれ全く違うといっていいと思います。子どもが継ぐにしても同じ継ぎ方は一つもありませんでした。

面白いと思ったのは、後継者が自分の会社や同じ業界で経験を積んでいない場合にうまくいっているケースが見受けられることでした。もちろん、ここに紹介されていない数多くの事例の中には、うまくいかなかったケースがたくさんあるのでしょう。単純に言える話ではないのは分かります。
ただ、異業界からやってきた場合、うまくいけば新しい風を起こせる場合があるようです。同業界しか経験がないと、良くも悪くもいままでと同じことを継続して満足してしまいす。傾いた事業を立て直したり、新規事業を起こしたりするには、いままでと異なった視点を持つ必要があります。

もちろん、そのことによって、従来からいる社員と対立を起こす場合もあるでしょう。そのことで、うまくいかないまま終わってしまう人もいるのだと思います。同族からの後継者の多くが修羅場を経験するのは、こうしたことと関係もあるのだと思います。

それでもなお、企業を成長させ続けようと思えば、新しい風は必要です。保守や伝統は復古や固執とは違います。「変わらず生き残っていくために自ら変化を求める」のが保守であり伝統です。従業員から後継者を選ぶ場合、こうした視点に欠ける場合があるのではないか。外から入ってくる同族の後継者のほうがやりきる可能性が高いのだと思います。

また、同族経営の場合、本当の意味での「長期的」な視点が持てる場合があります。本書で取り上げられている勇心酒造(香川県綾川町)は30年かけて研究開発を続けて、バイオ企業に転換をしています。これは一番極端な例ですが、どの企業も多かれ少なかれ、ある程度長いスパンで投資を考えているのがわかります。上場企業のように、1年ごと(場合によっては半期や四半期ごと)に結果を求められてはこんな視点はもちようがありません。

こうした点も、同族経営の強みだと感じます。


本書の後半では、さまざまなデータを分析して、上記のような点についても考察しています。この本の本当の価値は実はこちらにあるのではないか、と思えます。ビッグデータを活用し、成功する創業者像と2代目像を解明しようと試みています。こうした切り口を新書のような多くの人が読む本(つまり専門書ではない本)で示したのは初めてではないでしょうか。今後、さらなるデータの集積と分析が行われていくでしょう。こうしたデータ分析の裏付けによって、自分に必要になる事例はどれなのか、わかりやすくなることも期待できると思います。

同族経営にこだわりすぎるのは良くありませんが、排除してしまう必要もないでしょう。同族経営には同族なりの良さがあります。一定の条件をそろえば、同族が継承したほうがうまくいく場合の方が多いとも感じます。

日本全体で、事業承継は大きな課題になっています。黒字であるにもかかわらず後継者がいないために廃業する中小企業もあるのが現状です。

あらためて同族承継の良さを見直す時期ではないかでしょうか。そして、後継者候補の方は、その道を最初から排除せず、選択肢の一つとして検討してみてほしいと願います。自分の夢を追いかけるのも人生ですが、自分にしかできないことにチャレンジするのもまたやりがいのある人生です。

そして、そんな人の背中を押せるに人になりたいと、僕自身は思っています。