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自分思考 (講談社+α文庫)/山口絵理子



「途上国から世界に通用するブランドをつくる」

著者の山口絵理子さんが代表を務める(株)マザーハウスの企業理念・ミッションです。2006年3月9日に設立して、現在11年目を迎えています。

設立当初は、バングラデシュでバッグを製造して、日本で販売していました。現在はそれに加え、ネパールでストールを、2016年からはインドネシアやスリランカでジュエリーを製造して、販売店は日本のみならず、台湾や香港に出店しています。

途上国で製造をすることがどれだけ大変か、少し想像力を働かせてみればわかると思います。ましてバングラデシュは2006年以前、アジア最貧国といわれていました。ネパールはいまでも頻繁に停電が起きる国です。多くの困難を乗り越えて現在の状況にたどり着きました。そしてそこに留まることなく、新しく進出した国で新たなアイテムの製造を開始しています。

その行動力はどこから生まれて来るのか。この本を読むと、彼女の考えていること、思考癖のようなものがわかってきます。

<目次>
第1章 みつける
第2章 一歩踏み出してみる
第3章 続けてみる

この本で繰り返し述べられているのは「動くことの大切さ」です。

この一連の体験の中で、私は心から「動いてみること」の大切さを知った。すべては動いてみなかったら始まらなかった。動いてみて、はじめて知り得たことがたくさんあった。(p30)
私は、よちよち歩きの中で知ったことがある。「一歩でも半歩でも踏み出してみること」と、「その場に立ち止まって考えている」のとでは、雲泥の差なんだということ。「生みの苦しみ」という経験は、後になって、じわじわ効いてくる。半歩でもいいから踏み出せば、道がなかった場所に道をつくりはじめたという僅かな自信がつく。(p75)

山口さんにはこの本以外に、『裸でも生きる』とタイトルに入っている3冊の著書があります。山口さんの挑戦の歩みがほぼリアルタイムで描かれています。そこかる受ける山口さんの印象は「尋常でない人」です(笑)

インターンとしてニューヨークの国際機関で働いていたとき、援助が本当に現地の人に届いているか疑問に感じ、インターネットで「アジア最貧国」と検索して、出てきたバングラデシュに1週間後には旅立っていた、という行動一つとっても「尋常じゃない」との形容が嘘ではないと思うでしょう。他にも、信じられないような行動力を発揮して、さまざまな困難を乗り越えていく様子が書かれています。

「凄い!」と思う反面、「真似できないな」と感じてしまいます。普通の人ではないと思ってしまうわけです。しかし『自分思考』を読んでいくと、その裏で何を思い、何を感じていたかがわかります。

バングラデシュに行くと、催涙スプレーと防犯ブザーをバッグにぎっちり詰めていました。怖くて空港で一人、号泣したとも書いてあります。優柔不断で軟弱なところが垣間見えます。

普通の人じゃないか、と思います(笑) 恐怖心などなく、どんどん前に進んでいるわけではなさそうでした。僕らと同じように、動きたくないと思い、立ちすくむこともあるのです。

マザーハウスの山崎副社長が山口さんを「ビビりなのに大胆」と評していましたが(笑)、言い得て妙だと思います。ではなにが、ビビりを乗り越えて大胆に動かすのか。きっと、自分の内なる声に従おうとするからだと感じました。それはまったく合理的ではありません。冷静に考えればやらないと結論を出してしまうでしょう。それでも自分の主観に従って動いた。一度そうやって動いた経験があり、そこで価値観を揺さぶられるような経験をすれば、次からまた、動くことができるのだと思います。「動いたほうがいい」という想いが恐怖よりも少しでも強ければ、一歩踏み出すことが当たり前になっていくのだと思いました。

人が、信じられないくらいの行動力を発揮する理由は、不合理なものだと思います。合理的に考えてしまえば逆に動けなくなります。合理的であることが良いとされる時代に、不合理な自分の主観に従えるかどうか、それが一歩踏み出す勇気が持てるかどうかのキーになるように思います。

不合理と言えば、マザーハウスのビジネスモデルも決して合理的ではありません(笑) 現在、マザーハウスの社外取締役もされている、元早稲田大学ビジネススクール教授の遠藤功さんは
「MBAのビジネスプランでマザーハウスのビジネスをプレゼンテーションしたら、100人がいたら全員が無理だという。」
と言われたことがあるそうです。

それでも山口さんは、起業しました。

「事業計画書」を見て、大きな夢が広がる世界を感じることは、私はできなかった。数字で表せる限りのことが、現実味溢れる内容で書かれているのが事業計画書だ。それは現実的であればあるほど、そして正確であればあるほど、良いモノとして受け止められる。けれど、銀行との交渉でそれが必要でも、なにかをまずはじめようと思うときに必要なのは、現実的なエクセルよりも「夢のスケッチブック」なんじゃないかなと思う。(p62)
客観的な意見に人はついていくんじゃない。正しいかどうかわらからなくても、そして、おかしくて未完成であっても、とびきり強い主観に人は引かれ、人が集まる。(p57)

「ベンチャー企業の事業計画書の大半はコースターの裏に書かれる」との話を聞いたことがあります。真偽はわかりませんが、さもありなんと思いました。山口さんの場合はそれが、コースターではなくスケッチブックだったわけです(笑)

人が動くのは感情によってです。論理で納得はしても動けるわけではないと思います。感情がついていかないと無理でしょう。

感情を動かすのは、主観であり想いです。数字では動かない。もちろん、想いを形にしていくために客観的な分析、数字は必要になりますが、どちらが先かと言えば、断然、主観だと思います。

本書を読んでいくと、世間に流布している山口さんのイメージとの違いが見えてくると思います。優柔不断で軟弱なところもあるのがわかるはずです。決して、スーパーストロングウーマンなわけではありません。

にもかかわらず、現実の山口さんは自分の中の恐怖心などを振り払い、動き続けています。0から1を生み出す挑戦を止めようとしない。

そこにはどんな思考が潜んでいるのか、本書を通して感じてみるといいと思います。自分には真似できないと思わなくていいとわかるはずです。なにもいきなりバングラデシュに行って起業しようという話ではない。とにかく半歩でも前に動いてみること。そこで考えて、また次に動きをしていくこと。その繰り返しでいつか、自分でも想像ができなかった場所にたどり着ける日が来るのだと思います。

動くことは「思考」の結果であると同時に、新しい思考に到達するためのヒントになる。一方で思考が伴っていないただの「動く」は誰にでもできて、そこには何の意味のないと思っている。(p188)




PS
ちなみに、下記の記事のインタビューを担当させてもらっています。
昨日の番組のおかげで、アクセスが伸びているみたいです。

カンブリア宮殿の最後に、村上龍さんが語った「編集後記」を文字起こししておきます。僕は鳥肌が立ちました。
「山口さんは、イジメ、非行、柔道、そして途上国における起業と、非常にユニークな人物に見える。だが実は、『アンフェアに立ち向かう』というオーソドックスな価値観に貫かれている。マザーテレサやチェゲバラと同じだ。
根性という言葉が苦手らしい。根性でサバイバルできるような安易な時代状況ではない。現場に行き、目標を発見し、その実現に必要なことは全部やる。その過程で、さらに多くの重要なことに気づき、信頼に支えられたネットワークが作られていく。
ユニークでもなんでもない。経営者の王道を歩んでいる。」