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やりがいから考える自分らしい働き方/矢島里佳




文化が経済を育て、経済が文化を育む。(p149)

文化と経済は、対立関係で見られることが多いと思います。文化は経済に役立たない。余暇やレジャーに過ぎないと考える人もいます。

しかし本当にそうでしょうか? 僕は違うと思います。

文化は人の心を豊かにすることによって、社会をよりよく回すために役立つという役割があります。しかしそれだけでなく、経済と結びつき、直接的に経済を発展させてきた面もあるのです。

たとえば、茶碗。経済合理的に考えれば、液体が飲めればいいわけですが、それに適した形をしていればいいわけです。しかし、茶道という文化の中でさまざまなデザインの茶碗が生まれます。それは文化を彩るばかりでなく、それを生産する職人が生まれ、原料を掘り出す人も必要になり、産業になります。もちろん、それを好んで買う人がいて、経済がまわるようになっていきます。

こうした例は、枚挙にいとまがありません。

本書の著者である矢島里香さんは、22歳で「株式会社和える」を起業しました。日本の伝統産業を活かした子供向け商品を製造・販売する会社です。現在7年目を迎え、着実な成長を遂げています。「和える」とは、「和え物」の和える。混ぜるではなく和える、です。混ぜるが互いの形を残すことなく一つになることだとすれば、和えるは互いの形も残しながら、互いの魅力を引き出し合いつつ一つになることを意味しています。

だから、冒頭の言葉は、矢島さんらしいと思ったのでした。

<目次>
第1章 現代の日本は、やりがいを持って働きづらい?
第2章 自分らしく働くためのヒント
第3章 これからの豊かな社会を考える


二項対立をさせたり、それを止揚させたりというのは近代的な考え方です。それはそれで重要だと思いますが、21世紀に入って、漠然と行き詰まりを感じている人も多いのではないかと思います。少なくとも僕は、息苦しさを感じます。

そんな時、矢島さんが言われることは、次に進むヒントになると感じています。

「働く」というのは。「生きる」の一部なのです。
「生きる」の中に「働く」があるのに、「働く」だけを分離させて考えていたら、悩んで悩んで心や体を病んでしまうのも無理はありません。(p63)

「ワークライフバランス」という言葉に違和感を覚えてきました。他に言い換える言葉が見つからないので使ってきましたが、何か違う、と常々思っていました。その理由がこの言葉でわかったように思います。

ワークはライフに一部に過ぎない(これを矢島さんは「『働く』は『生きる』の中にある」と言ったと思います)。だからバランスなんて取れるはずがないのです。もちろん、ワークはとても大事です。ライフの中でとても重要な地位を占めます。どのように働くのか、まさにこの本のメインテーマである「働き方」を考えるのは、人生を豊かにするために大切なことでしょう。しかし、ライフとワークは二者択一の関係にはありません。

近代化をしていくことはとても大切なことだと思います。しかし、なんでもかんでもそうすればいいというのは行き過ぎだと思います。特に日本は、そうした考え方をする国はなかったはずです。

神道と仏教を対立させず、まさに「和えて」しまって神仏混合(神仏習合)を生み出した国です。こうした考え方こそが、日本の伝統だと僕は信じています。

矢島さんは、いわゆる「失われた20年」で失われたことは、経済的な豊かさではなく、「心」ではないか、と書いています。そして「心の豊かさ」とはなにかに真剣に向き合うために、日本の伝統や精神性を興味や関心を持つ人が増えてきていると言われています。

日本は明治以降、近代化による経済成長を一貫して求めてきました。それは時代的に当然のことだと思いますが、その過程で、自らの伝統文化をぶち壊してきました。こうしたことは戦後に始まったことではありません。

たとえば、明治後期に行われた、いわゆる神社合祀令があります。この結果、多くの神社が廃止されると同時に、そこにあった鎮守の森は伐採されました。そして多くの伝統文化を断ち切ってしまいました。明治以降、こうした愚策は多々、繰り返されています。時代的な制約はありました。まずは経済を発展させないことには始まらないとの考えも当然だと思います。しかし、現在から振り返った時、それは愚策であり、別な方法があったのではないか、という反省はあるべきでしょう。また、そこで失われたものの中で、取り戻すべきものはないのかも考える必要があると思います。


「愛国ポルノ」
という俗称があります。

自国を過度に礼賛することに対する卑称です。巷にはこうした書籍やテレビ番組があふれています。しかし僕には、それをする人たちが、本当に日本の伝統や歴史、文化を理解しているとは思えません。

本当に誇るべき日本の歴史は何か、次世代でつないでいくべき文化は何か、そして失われてしまいそうな文化は何なのか。取り戻すべき伝統は何か。それらに真剣に向き合うことなく、「日本はすごい」と言い募っても、何の意味もないと思います。

矢島さんは、矢島さんなりに向き合い、日本が誇るべき、次世代につなぐべき文化や伝統に自分なりの答えを出しました。そしてそれを「仕事」として取り組んでいます。

「誰かのために」「社会のために」といった自分ごとからビジネスを考えるという始め方は、もはやきれいごとではありません。(p111)

こう言い切る世代が、新しい産業と文化を生み出そうとしています。そんな中、もっと年上の人間が、愛国ポルノにうつつを抜かしていていいのか。我々バブル世代、その上の新人類と呼ばれた世代は、「あなたたちは何を次の世代に残すのか」という問いを突き付けられているのだと思っています。

PS
こちらも読んでみてください。
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