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戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗/加藤陽子



「謀略史観」
巷でそう呼ばれる歴史の見方があります。

今回紹介する本が扱う時代であればこんな見方です。

「日本は、コミンテルンに騙されて、中国大陸に侵攻し、アメリカとの戦争に巻き込まれた」
「アメリカは日本の暗号を解読し、真珠湾攻撃を予想していたのに、日本を卑怯者に仕立て上げ、国民の戦意高揚をはかるため、ルーズベルト大統領は警戒指示を出さなかった」

最近亡くなった渡部昇一先生や櫻井よしこ女史などが主張されていた類の考え方です。(むろん、逆の立場の人にもあって、東京裁判を貫く「共同謀議」の考え方は、陰謀史観以外の何者でもない、と僕は思っています)

こうした意見を聞くたびに、
「なんて失礼な奴らなんだろう」
と思ってきました。

昭和初期の日本の政治・軍事指導者は、そんなに簡単に騙されたり、暗号を傍受されていることに気づかなかったりするほど、愚か者だったのでしょうか。

組織で見るとさまざまな、しかも決定的な欠点があって、それが悲劇的な敗戦を迎える結果になったのだとは思います。しかし個々人で見た場合、それなりに優秀な人が多い。むろん、経験値からいって、幕末の志士や明治の元老と比べるとスケールは小さいです。しかし、ちゃんとした教育を受けたエリートたちであり、コロコロと騙されるような人たちとは思えません。

本書をじっくり読み解いていけば、こうした陰謀史観(陰謀論)が根拠のない妄想だとわかるはずです。それどころか、巷間言われている責任者以外に問題があった事案も多いことも見えてくるでしょう。

<目次>
1章 国家が歴史を書くとき、歴史が生まれるとき
2章 「選択」するとき、そこで何が起きているのか ――リットン報告書を読む
3章 軍事同盟とはなにか ――20日間で結ばれた日独伊三国軍事同盟
4章 日本人が戦争を選んだのはなぜか ――日米交渉から見える痕跡と厚み
講義のおわりに 敗戦と憲法

個々人は優秀だと書きました。ではなぜ、組織としては機能せず、あんな結果を招くような選択をしていってしまったのでしょうか。

ひとつには、「被動者」の立場を取ろうとしたことがあげられると思います。被動者とは自分から動く能動ではなく、「○○させられてしまった」との受動態、受身形で行動する人を指す造語です。作ったのは、日清戦争時の外相・陸奥宗光です。 日清戦争では、清国から動くようにしかけないといけない、という意味で使ったようです。

まあ、陸奥さんの場合は能動的に自らを受動の立場に置く、という積極的な意味もありましたが、昭和では違います。

例えば海軍は
「アメリカと戦争はしたくないし、たぶん起きないと思うが、アメリカが全面禁輸をしてきたら武力行使します」
という態度を取っていました。戦争が起きるかどうかの場面で、相手任せの条件で決めていこうというわけです。

これがすべて悪いとは言いません。被動者の立場を取りながら、状況が好転するのを待つ、という知恵はなくはない。環境変化に柔軟に対応できるとも言えます。しかし、長期的な視野を持った国と交渉する場合、一貫した態度を取れず、支離滅裂になってしまう欠陥を持ちます。

日本人には「作為の契機」がない、と言ったのは丸山真男ですが、いまでも日本人の多くは「○○することになりました」と口にすることが多いでしょう。あたかも、環境によってそうなったかのように言います。自ら意志でつかみ取ったのだ、とはなかなか言わない。それを謙虚と言えば聞こえはいいですが、本当に責任を持った行動がとれるのか、疑問に思います。

もうひとつ、希望的観測で交渉を進めていることです。「たぶん、○○してくれるだろう」が、やたらに多い。それぞれの国は自分の国の利害を背負って交渉しているわけですから、日本の利益なんて考えるわけがない。

考えているように見せているのは「これ以上追い詰めると暴発しかねない」とか「追い詰めてドイツのほうに追いやらないようにしよう」としているだけの話です。

希望的な観測もある場面では大事で、それがないと絶望から暴発してしまいます。しかし歴史的に勝者は常に「最悪の事態を想定し、それを回避するためにはどうすればいいかを考え抜く」ことから生まれています。

そのためには、交渉相手が内を考えているのか知る必要があります。徹底的に相手の立場に立って、相手にとって得なことは何か、嫌なことは何か、と考えることから交渉は始まるはずです。それが日本は最後までできなかったと感じます。

そしてそれは今も変わらない。テロリストに日本人が人質としてとらわれ、その件を質問された日本の総理大臣は
「テロリストの考えを忖度しろというのか」
と逆ギレした答弁をしていました。

たまたまその場面を見ていたのですが、
「忖度するんだよ、馬鹿」
とテレビに向かって叫んでしまいました(苦笑)

歴史を学ぶことは、いまを生きる知恵を得ることにつながります。国家の運営などという大きな話ではなく、ビジネスをしていく上でどう振る舞えばいいのかも教えてくれると思います。

他にもさまざまな示唆を与えてくれる内容です。自分が、社会が、日本が、これからどうすべきか、歴史に学ぶきっかけをこの本からつかむことができると僕は思っています。

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