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五感経営 産廃会社の娘、逆転を語る/ 石坂典子

 

「謙虚な心、前向きな姿勢、そして努力と奉仕」

このフレーズは、著者の石坂典子さんが代表取締役社長を務める石坂産業株式会社の企業理念です。典子さんが社長に就任するとき、創業者であるお父様にお願いをして決めてもらったそうです。

そして現在、ホームページの「理念」にはこう書かれています。

私たち石坂産業株式会社は、循環型社会のために
産業廃棄物処理はどうあるべきかを考え、みずから行動していきます。
石坂産業HPより)

この理念に従い、業界屈指の「減量化・再資源化率95%」を達成しています(業界平均は80%)。父子で取り組んだ大規模なプラント投資によってこの数字は可能になりました。

また、周辺の不法投棄廃棄物を片付け、生物多様性ゆたかな森づくりを進めています。敷地面積の約87%を、緑地帯と環境施設対策のために使っているのです。それは「里山環境教育フィールド 三富今昔村」の開村へとつながりました。

しかし、三富今昔村はすぐに利益にむずびつくものではありません。それどころか、現在は完全に持ち出しの状況です。

利益にならないことになぜ取り組んでいるのか? その秘密は本書を読んでいけばわかってくるはずです。

石坂産業2


<目次>
はじめに
プロローグ ―― ジャンヌ・ダルクがやんちゃだったころ
第1章【CSV編】グローバルに考え、ローカルに行動する
第2章【リーダーシップ編】しつこいトップダウンに始まり、おおらかなボトムアップに至る
第3章【競争戦略編】値決めは経営。安売りは断固、拒否します!
第4章【人材教育編】「自分で考える」のは面倒くさい? 仕事の醍醐味を伝える
第5章【キャリアアップ編】「社長=父」、この繊細にして偉大な上司の生かし方
第6章【ワークライフバランス編】バツイチのワーキングマザーが、心の安らぎを取り戻すまで
第7章【コミュニケーション編】社長業は、社員とのあいさつ一つから真剣勝負
エピローグ ―― 笑われてもなお、夢を描き続ける

典子さんが社長になるきっかけは、会社が危機に陥ったことでした。1999年、石坂産業が隣接する所沢市の野菜からダイオキシンが出たという報道が流れました。それをきっかけに産廃業者に対する激しいバッシングが起こります。報道自体は誤報であり、訂正報道もされました。石坂産業はその2年前、ダイオキシン対策炉を導入していました。しかし、風評は止まりません。所沢産の野菜が全国に流通しなくなったこともあり、地元住民の怒りの矛先は、大手であった石坂産業に特に激しく向けられました。地元からの信頼を失ってしまったのです。

そんな時期に、「父の想いを継げるのは自分だけ」「会社を守りたい」との想いから、父親に直談判し、社長に就任します。ただし、代表権は会長になったお父様が持ったまま。
「試しに何が経るかやってみろ」
とのお父様の言葉で、典子さんは「取締役社長」として経営に乗り出すことになります。

問題は山積みです。不当なバッシングを跳ね返しつつ、信頼を取り戻さなくてはいけない。そのために許認可を得て新規投資をし、社内の改革も進めなくてはいけない。とにかく無我夢中で目の前の難局に立ち向かっていきました。

ですから、時間的にじっくり腰を据えて、書籍やスクールで経営を勉強する時間はありません。経営はすべて、実践から学んでいきました。

そこで何より役立ったのは、お父様から教えられた
「五感を研ぎ澄ませ」
との言葉だったそうです。

本気で仕事をすれば、日々のあらゆる場面にヒントが転がっています。五感をフルに活用してそれをつかむ。そこで得た直感を、会社の仕組みに落とし込んでいく。そうやって自分なりの経営のスタイルを作りあげていきました。

本書はこうして培ってきた経営スタイルを、テーマに沿ってまとめたものです。

さまざまさ取り組みをしてきたことがわかります。CSV編には、里山環境整備のために何をしたのか、競争戦略編では、どんな施策を打って価格競争から抜け出したのか、などが書かれています。

ただ具体的なやり方を真似ればいいという話ではないと思います。体当たりで取り組み、試行錯誤を繰り返した過程の中に本質があります。それが学ぶべきことだと思っています。


2013年、「石坂技塾」を社内に立ち上げました。重機の取り扱いから、マナー、プレゼンなど約50講座を用意し、年10講座以上を目安に好きなものを受講してもらう制度です。

この「石坂技塾」には、社員が教壇に立つ講座がたくさんあります。
この学校を作った狙いは、社員に「学ばせる」ことはもちろん、それ以上に「教えさせる」ことにあります。人前で自分の考えを話す。そのために準備をする。話してみて相手が理解できたかどうか、どう感じたかについて、アンケートでフィードバックを受ける。その結果を受け止め、より伝わる方法を自分で考える。その繰り返しの中で、次世代のリーダーがそだっていくのではないかと考えたのです。(p107)

いちばん学びが大きいのは自分が教える側になることだ、とよく言われます。それは間違いありません。ただ、それを仕組化し、社内制度に取り入れられている会社がどれだけあるでしょうか。特に中小企業の場合、あまり見かけません。

じゃあ、といってすぐに自分の会社に取り入れればいいか、と言えばそんなことはないと思います。この塾が立ち上がったのは典子さんが社長になって10年以上たっています。人を育て、環境を整備し、「いまだ」というタイミングで立ち上げたわけです。会社には成長のフェーズがあります。フェーズにあった取り組みがあるはずです。それを無視して真似をしてもうまくはいかないと思うのです。

だから具体的な施策を真似るのではなく、石坂さんが何を思いその時々の会社をどう捉えていたかを理解して、その施策を打った理由を考えて、自分自身に引き付けて考えてみる。そうすることで、血となり肉となっていくのではないでしょうか。

本書はこんな言葉で締められています。

称賛を受けておごることなく、落胆することがあっても前向きに夢を追い、そして自分が社会に奉仕できることは何かを見定め、努力を続ける。
その先に必ず、実り豊かな人生が待っているはずと思うのです。(p292)

お父様から受け渡された理念を守って生きていこうとする意志を感じました。
2013年、代表権も継承し、名実ともの会社のトップに立ちました。自分の判断で、自分なりのやり方で、これからも経営を進めていかれることでしょう。しかしその根底には、お父様から引き継いだ想い、理念が息づいています。そしてそれを次の世代につないでいこうとする想いも感じるられると思います。

この言葉、僕の座右の銘の一つとして大切していこうと思います。

*石坂さん個人のことをより知りたいなら、こちらの書籍もぜひ。
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