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やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力/迫俊亮



コミットメント。これを僕なりに定義するなら、「本気度と覚悟を周りに示すこと」だ。P98

ミスターミニットをご存知でしょうか。駅の改札を出たところや百貨店の一画などに小さな店舗を構え、靴修理や合カギ作成などをしている会社です。名前は知らないけど使ったことがないなどはあるでしょうが、店舗を目にしている人は多いと思います。
著者の迫俊亮さんはその会社の社長です。

29歳の若さで社長に就任。過去10年間、業績は右肩下がりだった会社を3年間で劇的に変えました。その秘訣が書かれているわけですが、なにかものすごい秘策を講じたわけではありません。読んでみればわかりますが、目を見張るような戦略があったわけでもないのです。

では、なぜそれが可能だったのか。帯には
「戦略よりロジックよりも、大切なものがある」
と書かれています。

僕が感じたのは、迫さん自身が、その大切なものを実行することを本当にコミットメントしたからだ、ということです。

〈目次〉
第1章 10年連続右肩下がり」の会社では 何が起こっていたのか?
第2章 信頼度ゼロからでもリーダーシップを築く方法
第3章 やる気と向上心を引き出す「人事」をつくる
第4章 社員の能力を100%引き出す 「組織・インセンティブ・会議」をつくる
第5章 人を動かし、未来を紡ぐ「ビジョン」をつくる

迫さんのお名前は、かなり前から知っていました。前職はマザーハウスで、台湾進出の責任者をされていました。山口絵理子さんの『裸でも生きる ~25歳女性起業家の号泣戦記~ 』には、インターン時代、そして三菱商事を半年で辞めてマザーハウスに戻ってきた迫さんのことが書いてあります。

迫さんがマザーハウスを退職されたときのブログも読んでいまいました。
4年半、転職、次
「今回も、この選択を正しいものに自らの手でしてみせる。」
この力強いことは強く印象に残っていました。

だから、迫さんがミスターミニットの社長になって結果を出しているという記事を見かけても
「あの人ならやるだろうな」
と考えていました。読んでみたらそんな簡単な話ではむろんなく(苦笑) 多くの困難を乗り越えての結果だとわかります。

迫さんがやったこと、それはすべての視点を、現場が最大の力を発揮できるようにするためになにをすべきか、に向けたことだと思います。

この会社で、僕は社長として何をしたのか?
(中略)
僕はひたすら、会社のすべてを現場中心につくりなおしてきた。現場を徹底的に尊重し、「現場軽視」につながる施策はすべて廃止した。(p3)

具体的に何をしたかについても書かれています。その施策はオーソドックスなビジネス書に書かれていることと違う点がたくさんあります。会議の仕方、KPIの決め方、リーダーシップのあり方など、数え上げればきりがありません。なぜか。迫さんは「すべての仕組みはその会社のオーダーメイドであるべきだ」と考えているかでしょう。

それぞれの会社には、固有の文化があり、その時点で在籍している社員の資質があり、成長段階のフェーズがあります。一つとして同じ「現場」はありません。だから、先行する成功事例の「やり方」を真似てもうまくいかない可能性のほうが高いのです。学ぶべきことは別にあります。

エクセレントカンパニーの本を読むときや他社の先行事例を参考にするときに必要なのは「なぜこの仕組みを作ったのだろう?」「この仕組みの本質はどこにあるんだろう?」と考える姿勢だ。どんな文化を持っていて、何を目指しているのか。この制度で社員にどんな影響を及ぼしたいのか。うちだったら、この仕組みに類するのはどんな仕組みか。
上澄みではなく本質を見極め、その本質だけをお借りする。これが、「正しい他社事例の使い方」ではないだろうか。(p188)

ノウハウを真似るのではなく本質を学び、自分の組織だったら何をすればいいのかを考え抜く。そしてそれを現場が最大の力を発揮できるように組織に浸透させていく。この事にコミットする。それがリーダーの仕事だし、そうすることで組織は生まれ変わることができるのだと思います。

ベンチャー企業がもてはやされる時代ですが、そしてベンチャーがたくさん出てくることももちろん大切なことですが、それ以上に、日本企業の大多数を占める「普通の会社」が、生まれ変わり、光り輝くことが大切です。日本社会全体が元気になるためには、欠かせない要因でしょう。

10年間、右肩下がりだったミスターミニットが3年でここまで復活できたのです。復活という言葉はふさわしくないこもしれません。元に戻ったわけでなくあらたに生まれ変わり、過去を超えていきました。

だとしたら、我々にもできるかもしれない。まずはリーダーが覚悟を決めること。そしてそれを現場に示していくこと。その先に、あたらしい未来が待っているはずです。

そんな勇気をもらえる1冊です。


(追記)
迫さんは大学で社会学を学んでいたそうです。そんなわけでこんなことが書かれていました。

アメリカの社会学者、ライト・ミルズは「あらゆる問題を個人の問題として捉えず、集団や仕組みの問題として捉える」という考え方を「社会学的想像力」と名付けた。ミクロの個々の小さな問題とマクロの大きな構造を連動させて考える、社会学の基本だ。(p107) 

僕も社会学をかじっているので、この基本についてはよくわかります。そしてこの考えを組織に応用するとどうなるか。

「責任はすべて個人ではなく仕組みにある」という社会学的な考えに基づけば、担当者のアクションが鈍くなったら、それは組織のキャパシティを超えてしまったという「サイン」だ。(p185)

「自己責任」が重視される時代ですが、リーダーが「それはお前の自己責任だ」と部下に言ったところで、なにかが好転するわけでもなく、責任が回避されるわけでもありません。「結果」を出していこうと思うなら、仕組みを変えて、個々人の力を引き出すことを考えなくてはいけません。

「社会学的想像力」を自分なりに常に働かせ、大切にしていこうと思います。