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ママの人生/和田裕美



「映像や漫画といった、いままでやったことのない表現方法にチャレンジしていきたい」

以前、インタビューをさせてもらったとき、和田裕美さんはそう言っていました。だからなのか、「小説を書いている」と聞いても不思議だとは思いませんでした。

実のお母さま(ママ)をモチーフにされるのも納得できました。小説家のデビュー作は、実体験をモチーフにすることが多い。『こうして私は世界No2セールスウーマンになった 』や『たくさん失敗して気づいた幸福のヒント36 (幸せレシピ) 』などに登場するママのエピソードは、「小説のネタになってもおかしくない」と思えるものばかりだと思っていました。

しかし、プロモーションが始まると、周囲がざわつくのを感じました。そして自分で実際に読んでみて、「なるほど、世間がびっくりして、ざわざわするのもよくわかる」と思いました。

<目次>
1章 わたし、小学生
2章 わたし、思春期
3章 わたし、大学生
4章 わたし、社会人

ビジネス書の中には、小説仕立てにすることで、ノウハウやスキルをわかりやすく伝えていこうとする分野があります。名著と言われるもの、ベストセラーになったものも数多くあります。『ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か 』や『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』などが典型でしょう。しかし本書はそれらと明らかに違います。これは小説でしか表現のできない世界だと僕は感じました。

確かに、小説の中で「ママ」が発する数々の言葉は、和田さんが伝え続けている「陽転思考」に通じます。原点のようなものだと言って過言ではありません。その意味でビジネス書・自己啓発的な内容だとも言える部分はあるでしょう。

しかし、ママの生き方そのものがビジネス書的ではありません。効率的ではないし、道徳的でもない。パパ(夫)以外の男性といつも恋をしていて、ときに、子供を置いて出奔してしまう。世の中をうまく渡って生きていこうと思うなら真似しないに限ります。

それでも、ママの一生は幸せだったのではないかと思うのです。うまく生きることと幸せに生きることは違うからです。必要以上に周囲に束縛されず、顔色をうかがわず、自分らしく生きるのは、軋轢を生むかもしれませんが、自分がそれを望むなら幸せなんじゃないかと思うのです。

また、そうした生き方をするからといって必ず人に嫌われてしまうわけでもありません。完全無謬だからその人を好きになるのではないでしょう。欠点までひっくるめ、ときに欠点がその人の魅力を引き立たせることで、好きになっていくのだと思います。

その意味でこの小説に、無頼派、坂口安吾や檀一雄に通じるものを僕は感じてしまったのでした。


小説ですから、メッセージをどう受け取るかは人それぞれだと思いますが、僕は、「自分を押し殺して生きるのをやめよう」「他人の目を気にしてやりたいことをやらないと不幸になるよ」だと思いました。

「物言えば唇寒し」のような閉塞した現代の状況に、一石を投じるメッセージだと受け取っています。読み終わると、自分も何か仕掛けていこうと、元気が出てきました。

元気を出そうぜ、とメッセージを送りたいとき、ビジネス書なら、
「元気を出しましょう。元気の出し方には3つのやり方があります」
と書くのがオーソドックスでしょう。でも小説はそうはいかない。元気を出してほしいときに、「元気出そうぜ」と言ったら何のひねりもありません。「元気出そうぜ」と言わずに元気を出そうという想いを表現するのが、小説(アート)だと僕は思っています。

そしてこの本には「元気出しましょう」なんて記述はどこにもありません。それどころか、全体の文体のトーンは、抑え目です。感情表現は少なく、抑制された事実の描写が中心です。にもかかわらず、喜怒哀楽の感情を沸き立たせられました。

だから、やっぱりこの本は、「小説」なんだとあらためて思うのです。


「以前、『わくわく伝染ツアー』でやってきたように、世の中にいままでなかったものを生み出していくことをやっていきたいし、それをやるのが私の役割だ、と思っています」

以前のインタビューで、最後に言われていた言葉です。これまで通りビジネス書を書く道を歩んでいけば、うまくいくことは見えているのに、あえてその道をはずれ、山に入ってあらたな道を切り拓こうとしているかのように見えてきます。得意技で勝負し続けない。これもビジネス書的ではないですが(笑)、そんなチャレンジを続けるから成長し続けられるのでしょうし、和田さんはやっぱり凄いと思いました。

そして、そのチャレンジの片棒を担いでこの本を世に送り出してくれた、編集の斉藤さん、ポプラ社さんに感謝したい。僕がその立場なら同じようなリスクを取れた自信はありません。


最後に、普段ビジネス書ばかりで小説を読まない人が、この本をきっかけに文学作品に触れるようになってくれるといいなと思っています。そして僕自身、久しぶりに、文学の世界に回帰したい気分になっています。そんな気持ちになれたことが、一番の収穫かもしれません。