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デマとデモクラシー /辻元清美



海上保安庁が保有する大型巡視船に「あきつしま」という船があります。日本に2隻しかない、PLH型(ヘリコプター2機搭載型)巡視船です。財務省の反対を押し切ってこの船の導入を進めたのが、国土交通副大臣時代の辻元清美さんです。

彼女に関するデマはネットを探せば、というか探さなくても、検索窓に名前を入れるだけでわんさか出てきます。しかし、こうした実績について調べようとするとなかなか見つからない。デマが書かれたサイトが上位にきてしまうので探し出すのが大変なのです。

流布していたデマを放置し続けた辻元さんですが、やまもといちろう氏との対談で、「そりゃダメでしょう」と指摘されました。
「イメージと実態の乖離さえもう少し詰めておけば、根も葉もない風評が出たとしても『いや、実際は違うんだよ』とフォローする人がたくさん出てくるはずだ」
とのアドバイスもあって(他にも理由はありますが)、デマと向き合い、打ち消す努力をしていくことにしたそうです。

本書はその一環です。

<目次>
第一章 「デマ」に浸食される政治
第二章 ドキュメント・「安保法制」特別委員会
第三章 小林よしのり×辻元清美「改憲・護憲を超えて」
第四章 内田樹×辻元清美「“成長経済"から“定常経済"へ」
第五章 デモクラシーとわたし

といいながら、デマの件に話が及ぶのは、第一章と第五章のごく一部だけです。その意味で言うと、タイトルはこれでないほうが良かったのではないかと思います。にもかかわらず、僕は面白く読ませてもらいました。

理由の一つは、政治家・辻元清美というより、人間・辻元清美の素が出ていると感じたからです。やまもといちろうさんの言葉を借りれば「もがきながら前に進んできた女性の率直な心の述懐が詰まっている内容」になっているからです。

もう一つは、第三章の小林よしのり氏との対談が非常に面白かったからです。世間的には真逆な意見の持つ主だと思われている二人。ですが、一致できる部分と一致できない部分を確認しながら議論を進めていく様は、刺激的でもあるし、こうやって議論はするものだ、という形を示してくれていると感じたのです。(内田樹さんとの対談は、ご本人にはそんなつもりはないでしょうが、同じ意見の者同士が予定調和で対談している、と見えてしまう節があって、そこまでは面白くありませんでした。)

辻元清美という政治家を、僕は1996年の初当選以来、それなりにウオッチしてきました。それ以前、朝生(朝まで生テレビ)に出演しているのを見ていて、
「小うるさいけど面白そうな奴だな」
と思っていたからです。

忘れている人(知らない人)が多いですが、彼女が初当選したとき、所属していた社民党は与党でした。自社さ連立政権はまだ終わってない時期です。で、社民党から人がいなくなったので、1回生ながら政策審議会のメンバーとして、自民党の加藤紘一、山崎拓、野中広務といった面々と協議を重ね、特定非営利活動促進法(NPO法)や被災者生活再建支援法を成立させてきた人です。そこが、社民党が野党に戻ってから議員になった福島瑞穂さんと違うところです。(それ以外にも違う理由はありますが)
(もっとも、ネット界隈では、辻元清美と福島瑞穂の識別ができない人がいて、それがけっこう立派な社会的ステータスの人だったりするので、困ったもんだと、思ったりもしています。)

彼女は、大阪商人の娘として育っています。「損して得取れ」とはどういうことか、実感として理解している人だと思います。建前を声高に叫び、言うことを聞いてくれないなら連立離脱だ、と突っ走ってしまう、弁護士上がりの政治家とは違うのです。

何が言いたいかというと(笑) 彼女は「話し合いができる人」だということです。

僕が尊敬する、新右翼団体「一水会」創始者・鈴木邦男さんは辻元さんの応援演説に行き、
「今の日本に”右翼と左翼”がいるのではありません。”話し合える人と話し合えない人”がいるんです」(「鈴木邦男の愛国問答 第165回 デマと闘う選挙運動の異常さ」より)
と言ったそうです。

前述のやまもといちろうさんは自身のブログにこう書かれています。
この人は真の意味で「鏡」(鑑でなく、鏡)だなと思うわけです。「このやろう」と息巻くと辻元女史も湯気立てて論争するし、「ちょっとお互いちゃんと話し合おう」となるとお茶を挟んで一時間みっちり喋る、みたいな。(やまもといちろう公式ブログ「辻元清美女史と、7月25日に出版記念&都知事選を面白がるイベントをやります」より)

そして僕は、今、求められる人材は、立場の違う人とも話し合いができる人だと思うのです。

政治の世界のみならず、民間でも、本当の話し合いができているのか、僕は疑問に感じています。派閥をつくり、お互いに込み入った話をしようとしない、そんな会社はごまんとあります。あるいは、すべてをトップダウンで片づけ、人の言うことを全く聞かないトップもたくさん見てきました。

仕事がうまくいかない理由の多くは「話をしていないから」だと僕は思っています。話す意思があっても、すれ違ってしまうことがある世の中で、初めから立場の違いに託けて、話し合いを拒否するのは、仕事で成果を出す気がないのだろう、と僕などは考えてしまいます。

すべてが一致するわけがありません。「それは分かった」「ここは譲れん」といった話し合いの積み重ね、合意形成が必要なはずです。ネゴシエートとはそういうことだと思うのですが、グローバル化が言われているにも関わらず、こうした話し合い・議論は驚くほど行われていないと感じています。彼女が裏で持っている、タフ・ネゴシエーターとしての資質に学ぶことはあると思います。

辻元さんの政治的な主張で言えば、部分的に共感することもありながら「いやいや、辻元先生、それは夢を見すぎでしょう」「世の中そんなに善意にはあふれてないよ」と言いたくなることが多々あります。ですが、そうした主張を抜きにして、彼女の人間性のファンとして、立場を超えて応援していきたいと思っています。