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黄色いマンション 黒い猫/小泉今日子



「キョンキョンのあまりの文のうまさと、あまりの暗さに驚く。底知れぬ美しい暗さだ」

この本の原型である『原宿百景 (SWITCH LIBRARY)』の帯に、吉本ばななが寄せた一文です。

言いえて妙だと思いました。まさに読後感は「底知れぬ美しい暗さ」です。彼女の身近な亡くなった者の話が繰り返し出てきます。愛猫、父親、幼なじみ、昔のボーイフレンドの母親、岡田有希子と思しき後輩アイドル……

だけど少しも陰鬱じゃない。あくまで僕が受けた感覚だから理由は説明できません。ただおそらくは、死に対して過度な恐れを抱いていないのだと思います。この世で巡り合った縁に感謝する。自分が忘れないでいることが、その人が生きた証の一つになるのだという感覚。そんなことが混ぜ合わさって、独特な透明感を生み出していると感じました。
小泉今日子書評集』を読んだ時も感じたのですが、彼女の書くものには「失われて取り戻せないもの」が頻繁に登場します。亡くなった方の話はその象徴です。「失われて取り戻せないもの」への敏感さが、変化し続ける小泉今日子の秘訣のような気がします。

僕たちは、変化すること、成長することを、いま持っていることの上に積み上げていくように考えがちです。でも本当の変化・成長は、何かを失うことの代償として手に入れられるものではないでしょうか。何かを手に入れることは、その分、何かを失うことを意味しているのではないでしょうか。

本当に大切なものを失うことの意味を知っているからこそ、自分を変化させていくことができるのではないか、と僕は感じています。これもあくまでも僕の感じ方で、違う想いの人もいると思いますけど。

読む人によって感じ方が違うと思います。僕の感じ方は同世代としての共感と励まされたという想いが強く出ています。世代によって、男女の違いによって、それぞれの想いを抱くはずです。だからみんな、手に取ってほしい。

この本の最終章「逃避行 そして半世紀」は、他の章と違いこの本のために書き下ろされたものです。その最後は、次のような言葉で締めくくられています。
(ネタばれしてほしくない人は、ここで読むのを止めましょう)

僕はものすごく励まされました。そして、同じように生きて、歳を重ねたいと思いました。

原宿という町名がもうないのに、いまでも誰もがそこを原宿と呼ぶように、私の人生が終わっても、私が生きた証を、どんなに小さくともかまわないから、残せたらいいなと思いながら、また生きようと思う。(p165)

原宿表参道