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いまこそアダム・スミスの話をしよう~目指すべき幸福と道徳と経済学~ / 木暮太一



今までで一番やさしい経済の教科書』など、数々のわかりやすい経済学の著書を出されてきた、木暮太一さんが、経済学の父と言われるアダム・スミスについて書かれた本です。(2012年当時)

アダム・スミスは、多くの人にとって彼の名前と
「神の見えざる手」
というフレーズはは知っているけどそれ以上は、、、という存在ではないかと思います。

僕は、こう見えても立派な「経済学士」でして(苦笑) 学生の頃、スミスの著作である『国富論 - 国の豊かさの本質と原因についての研究』 にどんなことが書かれているのか、概説してくれる講義を履修していた(ような記憶)があります。

むろん、原著を読んだわけでもなく、真面目に講義に出ていたわけでもありませんから、当時持っていたイメージは
・「神の見えざる手」といって自由放任主義を肯定した
・サッチャー、レーガンといった「新保守主義」者たちの教祖
という程度のものでした。(今考えると恥ずかしい)

目次 :
序章   通説アダム・スミス
第1章 何が善くて、何が悪いのか?―スミスの『道徳感情論』
第2章 「正しい人間」と「正しくない人間」―「賢人」と「軽薄な人」
第3章 何が経済を発展させるのか?―『国富論』の理論
第4章 経済発展はなぜ必要なのか?
第5章 政府の役割とは?
第6章 スミスの「幸福論」
終章  人として、どう生きるべきか


この本のサブタイトルは
「目指すべき幸福と道徳と経済学」
ですが、目次を見ていただければわかるように、道徳論から始まり、幸福論で終わります。中心論点は、経済学ではなく道徳と幸福だという印象を受けました。(経済学は道徳と幸福にどう役立つか、という扱われ方です)

そして、結論からいってしまえば、スミスが経済学の役割として考えていたことは
「貧民救済し、人々が幸福になるための経済発展」
という目的でした。

スミスの道徳観、さらには経済理論を理解するうえで、この「同感(同類感情)」の概念を外すことはできません。スミスの全てはこの「同感」を前提にしているといっても過言ではないのです(p29)

実は、2000年代に入ってから、ある社会人講座で
「アダム・スミスの道徳論」(メインテーマはこれではなかったのですが)
について聴いたことがあります。

そのとき、最初に説明をされたスミスの道徳観の根本は、
「観照的態度での同感可能性」
これでは難しすぎてわからない(苦笑) と思っていると、ざっくくりと言ってしまえば、
「『明日は我が身』の想像力」
だと言われました。これならわかる(笑)

周囲に起きていることを、自分が当事者の立場になり、自分のこととして考える、 ということです。

こう考えると、
「市場は完全競争が正しい在り方で、そこでの勝敗は自己責任である」
と考える立場の人たち(市場原理主義者)が、スミスを教祖のようにいうのは違うだろ、という気になります。

「神の見えざる手」の部分を中心にアダム・スミスにスポットを当ててしまい、『道徳感情論』に書かれたことを知らないままだと、スミスについて間違った解釈をしてしまうことになりそうです。

意訳】人間の幸福とは「健康で、負債がなく、良心にやましいところがない状態」のことである。
この一文に、スミスの主張の全てが凝縮されています。これがスミスの結論なのです。(p227)

最後に、幸福論に言及されています。そして、木暮さんはこの一文がスミスの結論である、と言われます。経済学の目的もここにあるのだと。

僕は必ずしもこの状態が「幸福」であると言い切る自信はありません。現代は、幸福の価値観も多様化している、と認識をしています。

しかし、これは「不幸ではない」状態とは言えるのではないかと思います。
「健康であり」
(ここで言われることは単に五体満足である、といことではありません。詳細はぜひ本書を手に取って欲しいと思います)
「借金がなく」
「良心にやましいところがない」
という前提の上に、人はそれぞれの幸福を追求していけるのではないか、と考えています。

そして、経済とは、そうした人間の幸福への希求に貢献する活動であるべきだ、 と思います。
本書では、この他にもアダム・スミスの哲学的な言葉が木暮さんの意訳とともに現代の分かりやすい言葉でたくさん紹介されています。

多くの、ビジネスパーソンとして働いている方にとって、何のために「経済活動」に関わっているのか、その根っこの目的を問い直すきっかけを与えてくれる本だと思います。
(2012年2月17日記) 
(追記)
アダムスミスについての誤解は、根強いものがあると感じています。古典は原典に当たって読むことの大切さを痛感させられた本でした。
本書は現在、日経ビジネス人文庫に 『アダム・スミス ぼくらはいかに働き、いかに生きるべきか 』 というタイトルで日経ビジネス人文庫になっています。手に取りやすくなっているので、ぜひ読んでみてください。自分が
『何のために「経済活動」に関わっているのか』
問い直し、深く考えるきっかけになり得る本です。